出会いと発見 10
 

初心にかえること ―ティーチャーズコースに参加して―

すでにお知らせしたように、今年9月からフェルデンクライス・メソッドの専門家を養成するためのティーチャーズコースがスタートしました。年間8週間で4年間を要するこの長期のプログラムに、私も一生徒として参加するつもりです。どれだけ出席できるか分かりませんが、できるかぎりスケジュールをやりくりして出かけようと思っています。何と言っても日本で初めての試みですから、いろいろ難しい問題もありますが、とりあえずは無事航海の緒についたわけで、運営関係者の方々のご苦労には大いに感謝したいと思っております。

9月のコースは2週間のうち正味10日間で、まだやっとプログラムの玄関先に入ったところですが、フェルデンクライス・メソッドのワークショップに生徒として参加するのは、私にとってほぼ10年ぶりなので、連日のセッションは実に楽しい体験でした。レッスンやレクチャーの内容そのものは、すでに馴染みあるものでしたが、完全に自分を投げ出してある流れの中に身をおき、好き勝手に泳ぎ廻ることができるというのは、こんなにも解放感と充実感を覚えるものかと新鮮な毎日でした。かつて20年余り前、初めてフェルデンクライス・メソッドに出会った日々のことが懐かしくよみがえってきて、初心に返ることのすがすがしさを存分に味わうことができました。

私はつねづね「教えることは教わること」であると口にし、そのことを実行してきたつもりですが、久しぶりに生徒として文字通り教わる立場に身をおいてみると、「学習に終わりはない」とモーシェ・フェルデンクライスが絶えず力説したことの意味を一層強く体ぐるみで考えさせられます。「ひとは死ぬまで学習する能力を持っている」「生きることは学ぶことである」―このモーシェの言葉は、堅苦しい学問のすすめなどでは全くなく、人間の能力に対する底知れない信頼感が言わしめたのにほかなりません。そして、これこそがフェルデンクライス・メソッドの根幹をなしているのです。今回のコースが始まる直前、ある会員の方からやや不審そうに“先生がレッスンを受けるんですか?”と言われましたが、私は当然のことをやるつもりだったので大いに戸惑いました。口幅ったいようですが、“先生”こそより多く学ばなくてはならないのだと思います。学ぶことを忘れた“先生”は、権威主義者としてステイタスを守るしか道がなくなります。確かにそういう実例は少なくありませんが、折角の能力をどこかに置き忘れてしまっている姿を見るのはまことに淋しい限りです。

今回のコースの内容はこの後に要約して紹介しますが、ご覧になると分かるように、レッスンそのものはひじょうに基本的で初歩的なものばかりでした。しかし、全て初めて接するつもりで体験するといくらでも貴重な発見があり、それがまた別の発見へとつながる問題を考えさせるきっかけともなってきます。ところが、レッスンやレクチャーに対し「このレッスンはもう知っている」「この問題はすでに分かっている」という態度で参加したのでは、おそらく何も発見できず、退屈な2週間ということになっていたに違いありません。「問題はなにをやるかではない、それをいかに行うかである」とモーシェ・フェルデンクライスは繰り返し言いました。ともすれば忘れがちですが、これを自戒の言葉として今一度噛みしめたいと思います。


【ティーチャーズコース要約メモ】第1年度第1期

期間:1996年9月16日〜27日(土日を除く10日間)
[時間は毎日10:00から16:30まで、間に1時間30分の昼休みあり]


●1日目―1996.09.16. 月曜
[午前]
・ATM-1a−Eilat Almagor/BodyScaning/仰臥で踵の回転=爪先の回転
・[レクチャー]Eilat Almagor
・生命の誕生/細胞分裂⇒Differentiation/分化。誕生とは新しいものが創造されることではなく、あるものが分化すること。聖書の「天地創造」のお話。
・ATM-1b−Eilat Almagor/仰臥して天井へ伸ばした左腕を上下する。左肩、胸の左側、左股関節の動きをくわえる。
[午後]
・[レクチャーとビデオ]Journey Into Life
・ATM-1c−Eilat Almagor:右下横臥で天井へ伸ばした左腕を上下する/腕を垂直に保って肩・胸・骨盤・脚の動き。

●2日目―1996.09.17.火曜
[午前]今日から朝と昼休にFIの実習が始まる。
・[レクチャー]Eilat Almagor
・ATM-2a−Eilat Almagor/赤ん坊の最初の動き。拳を吸う動き。
・ATM-3a−Eilat Almagor/仰臥。頭の下で両手を組み、頭と脚を上下する。膝と肘を近づける。左へ転がって肘と膝を近づける。
[午後]
・[レクチャー]Eilat Almagor/興味の集中。学習の楽しみ。
・ATM-3b−Eilat Almagor/午前中の続き。右側のイメージ練習。右へ転がって肘と膝を近づける。同じ動きを左右交互に。
・レクチャー:学ぶ楽しみ。赤ん坊の学び方。
・ATM-3c−Eilat Almagor/仰臥、両手組んで頭の下で膝と肘を対角線状に近づける。ロッキング各種。シーソーの動き各種。

●3日目―1996.09.18.水曜
[午前]
・ATM-4−Eilat Almagor/声。指で片鼻を塞いでハミング。左右交互に。仰臥と座位で。声のピッチを変化させる。区切る。
・Video/Amharst FI Lesson/モーシェ・フェルデンクライスによるFIを観る。CPの少女。
[午後]
・ ATM-5―Eilat Almagor/目のレッスン。目を閉じて眼球を左右へ動かす。仰臥&伏臥。
・[話し合い]
グループで話し合い/ビデオの感想/話し合いの内容をグループごとに発表する。時間的制約から発表は2グループのみ。アルマゴール博士のコメント。
・ATM-03c―Eilat Almagor/座位で肘と膝を近づける。肘を足首へ近づける。上体を丸めて後ろに転がる。ロッキングへ。

●4日目―1996.09.19. 木曜
[午前]
・ATM-03d−Eilat Almagor/座位と仰臥で膝と頭を近づける。手でお尻を探る。手を膝の裏に入れて前後にロッキング。
・ATM-01d−Eilat Almagor/左下横臥で右肩の動き。前後上下左右。仰臥して左右の腕を交互に天井へ伸ばす。
[午後]
・Q&A(質疑応答)
・ATM-06a−Eilat Almagor/赤ん坊の動き。唇で拳に触る。生まれて初めての動き。口で拳に触り、肘と膝を近づける。左右へ転がる。転がって肘と膝を遠ざける。

●5日目―1996.09.20. 金曜
[午前]
・ ATM-07−Eilat Almagor/伏臥で頭上下。脚の上下。肩、肩甲骨、胸郭の動き。
・ ATM-08−Eilat Almagor/目のレッスン
・[レクチャー]Eilat Almagor/手の伸展反射の説明。(The Potent Self 参照)
・ATM-09−Doron Navon/座位で両脚を回す。360度の回転。

●6日目―1996.09.23. 月曜
・ATM-10−Mary Spier/両腕の三角形を倒す。(『フェルデンクライス身体訓練法』レッスン5参照)
・Video Amharst FI Lesson /3日目のビデオの続き。
[午後]
・ATM-11a−Mary Spier/伏臥して立てた両脚を倒す。股関節、骨盤、背骨の回転。頭との関係。
・ATM-12−Mary Spier/目のレッスン。伏臥そして座位で、眼球を上下左右へ動かす。
・ATM-11b−Mary Spier/伏臥で立てた両脚を倒す。倒す足を目で追って体を転がして座るまで。さらに動きを延長し旋回して立ち上がるまで。

●7日目―1996.09.24. 火曜
[午前]
・ATM-13−Eilat Almagor/シーソー呼吸を使用した骨盤から頭までの動き及び骨盤の回転。仰臥そして座位で。
・Eilat Almagor博士によるFIの実習デモ。
[午後]
・Q&A/姿勢について/PostureとActure。Static(静的)とDynamic(動的)。ダイナミック・リラクセーションについて。
学習のプロセスの大切さについて。
・ATM-14−Eilat Almagor/腕で床に円を描く。(『心をひらく体のレッスン』新潮社 レッスン6-1参照)
・ATM-06b−Eilat Almagor/仰臥。赤ん坊の動き。拳を口に。肘と膝を近づけて、目であらゆる方向を見る。全身の動きに。左右へ転がる。伏臥まで。一回転する。

●8日目―1996.09.25. 水曜
[午前]
・[レクチャー]
・ATM-15−Ellen Soloway/ボディイメージを捉える。身体各部の長さと空間関係。主観と客観の差違への気づき。
[午後]
・ATM-16a−Eilat Almagor/赤ん坊の姿勢から左右へ転がる。腕を伸ばして手で頭上の床に円を描くように回して左右に転がる。
・ATM-16b−Eilat Almagor/伏臥から左右へ転がり仰臥まで。
○レッスン終了後、サロンで8時まで親睦パーティー。

●9日目―1996.09.26. 木曜
・[レクチャー]Eilat Almagor/フェルデンクライス・メソッドと言葉について。ミルトン・エリクソンの言語的催眠治療法との関係について。
・ATM-17−Eilat Almagor/赤ん坊のポーズで足を見る。手で足を持って膝を伸ばす。足と頭を近づける。口に絵筆をくわえて脚に色を塗る。足を持って転がって座るまで。
[午後]
・[レクチャー]Eilat Almagor
10名前後のグループ別に話し合い、レッスン体験の感想を述べ合う。
・ATM-18a−Doron Navon/手で足を持って膝を伸ばす。左右へ転がる。

●10日目―1996.09.27. 金曜
[午前]
・Eilat Almagorによる公開FI
・ATM-1e−Eilat Almagor/仰臥から左手を垂直に上げて座るまで。左右の膝の使い方。骨盤、胸郭、肩帯の回転。初日のATM-1のラスト。仰臥から左右の腕を交互に天井へ伸ばし座るまで。
[午後]
・[レクチャー]Eilat Almagor/進化Evolutionについて。参考文献:Stephen Jay Gould "Ever Since Darwin"(邦訳『ダーウィン以来』ハヤカワ文庫)
・ATM-18b−Doron Navon/前日の続き。足を持って転がる動き。連続回転へ。
・Dr. Almagorの挨拶。来年6月に再来日。次回のトレーナーはCarl Ginsberg(『心をひらく体のレッスン』新潮社刊の編者)。

AWARENESS第17号(1996年11月27日発行)所載


inserted by FC2 system