フェルデンクライス・メソッドを研究するための

参考文献案内
手元にあるものの中から、現在入手しやすいものを中心にセレクトしました。当然ながら、私の独断と偏見が入っています。外国の文献で既に邦訳のあるものはそのむね付記しましたが、間違いがありましたら指摘して下さい。他にこういうのもいいのではないかというご意見がありましたら、是非お知らせ下さい。皆さんのお力を借りてよりよい文献目録ができれば嬉しいです。ここにあげた外国の文献の殆どは
Feldenkrais Resources: P.O.Box 2067, Berkeley, CA 94702, USA
を通じて入手できます。

           (1996.11.20. 安井)


[理論的背景の理解を深めるために]

時実利彦『脳の話』(岩波新書)脳科学への平易な入門書です。少し古いかも知れませんが、私自身初めて脳について教わった懐かしい本です。他に同じ著者で『人間であること』(岩波新書)もいい本です。

千葉康則『脳―行動のメカニズム』(NHKブックス45)これも脳の働きを理解するための入門書です。行動に焦点を当てた記述はとても分かりやすく、これ1冊でとりあえず脳についての初歩的な知識を得ることができます。

『ザ・ブレイン』(塚田祐三監修/白井尚之訳/鎌倉書房)イラストを多用した分かりやすい編集で脳研究の情報を集めています。これは1983年の出版ですが、同種のものはそれ以後各社から出版されています。特にNHKのサイエンススペシャルと連動して編集された

『人体』シリーズIとII(日本放送出版協会)は写真、コンピュータグラフィクス、図版等が盛り沢山で、視覚的な理解が得られます。

野口三千三『原初生命体としての人間』(三笠書房)独自の身体論から野口体操を生み出した著者は、日本独自の身体メソッドを創始しました。その身体へのアプローチはフェルデンクライスと通じる面があります。他に『野口体操・からだに貞く』『野口体操・おもさに貞く』(共に柏樹社)があります。

Stephen Jay Gould EVER SINCE DARWIN 邦訳『ダーウィン以来』(浦本昌紀・寺田鴻訳/ハヤカワ文庫NF)グールドの著書は沢山ありますが、殆どが邦訳されています。肩の凝らない進化論への招待としてなかなか面白いです。

Gregory Bateson; MIND AND NATURE 邦訳『精神と自然』(佐藤良明訳/思索社)ベイトソンはフェルデンクライスと親交があり、モーシェのワークショップでレクチャーをしたり、レッスンを受けたりもしました。この著名な書は思想的に大きな影響を与えた現代の古典とも言うべきものです。ベイトソンには他に STEPS TO AN ECOLOGY OF MIND (『精神の生態学』上下/思索社)などがあります。

伊藤正男編『脳と認識』(平凡社選書75)『脳と運動』(平凡社選書82)日本の第一線の脳研究者と関連分野の専門家たちによるワークショップの内容をまとめたもの。素人の私などには難解な部分がありますが、脳の研究がどんな方向へ向かっているかがよく分かります。

立花隆『脳を究める―脳科学最前線』(朝日新聞社)精力的な調査と綿密な取材で日本の脳研究の現状を詳しく紹介しています。なかなか知的興奮をそそる書物です。これに関連して同じ著者の『脳死』(中央公論社)『精神と物質』(文芸春秋社)などもあります。

Oliver Sacks A LEG TO STAND ON 邦訳『左足をとりもどすまで』(金沢泰子訳/晶文社サックス・コレクション)山中で転落事故にあい、大怪我を負った脳神経科医サックス博士が、快復までの自分の不思議な体験を語ります。心と体、病と癒し、患者と医者のあり方について深く考察しています。同じ著者に『妻を帽子とまちがえた男』『レナードの朝』(共に晶文社)などがあります。

Mabel E. Todd THE THINKING BODY (Dance Horizons, 1959) 初版が1937年という古いものですが、人間の運動能力を左右する動的な力を研究した古典的著作で、モーシェ・フェルデンクライスも推薦した本です。動きの次元で身体の諸機能を全面的に詳しく論じており、今読んでも決して古くはなく、日本ではちょっと類書が見あたらない貴重なものだと思います。

I.A.Kapandji THE PHYSIOLOGY OF THE JOINTS (Churchill Livingstone, 1987) 『関節の生理学』邦訳があるはずです。カパンディはフランスの整形外科の教授で、当然ながら原著はフランス語で書かれています。タイトルに上げたのは英訳本です。全3巻で、300枚以上の図版を用いて関節の可動性を筋肉・骨格の働きを通して解析しています。解剖学の書物としては異例に分かりやすく、面白く、また取っつきやすい本です。

養老孟司『日本人の身体観の歴史』(法蔵館)フェルデンクライス・メソッドの参考図書とするには異論があろうかとも思いますが、最近読んでいろいろ考えさせられました。日本の中世、近世以来の身体観から、現代哲学の心身論、さらには西欧の身体観までを取り上げ、脳と身体を通してみる歴史と現代を縦横に論じて大変刺激的です。同じ著者で『からだの見方』(筑摩書房)『唯脳論』(青土社)などがあります。

[フェルデンクライス・メソッドに実際面からアプローチするために]

Ruthy Alon MINDFUL SPONTANEITY (Prism Press, 1990) 著者のルーシー・アーロンは、1950年代からモーシェのもとで学び、1969年にトレーニングコースを修了した指導者で、世界的に活躍しています。多数のATMレッスンが取り上げられ、ユニークな分析やアイデアが盛り沢山に詰まっています。本書は、イタリアとドイツのユング協会から自然医学賞を受賞しました。先日、改訂版が出たという連絡が著者から届きました。邦訳を準備中ですが、出版社を探しています。

Yochanan Rywerant THE FELDENKRAIS METHOD―TEACHING BY HANDLING (Keats Publishing, 1983) 著者は1952年にモーシェのもとで学び始め、機能的統合FIを30年以上にわたって実践し、世界中のセミナーやワークショップを指導しています。モーシェのお墨付きを得た本書は機能的統合FIについての唯一の教科書と言ってもいいでしょう。多数のイラストを使って、FIを理論と実践の両面から説いています。

David & Kaethe Zemach-Bersin and Mark Reese RELAXERCISE (Harper & Row, 1990) 著者たちはモーシェ・フェルデンクライスがアメリカで行った最初のトレーニングコースを修了し、1983年以来指導者として活動しています。コンパクト版ATMとも言うべき非常に簡略化されたレッスンが12種収められ、動きは全てイラストを併用して説明され、きわめて視覚的に編集されています。殆どが椅子に座ったレッスンとなっています。ATM入門書としてはこれも一つの方向かもしれません。

Jack Heggie RUNNING WITH WHOLE BODY (Rodale Press, 1986) フェルデンクライス・メソッドをランニングに応用した実例です。12のレッスンと12のケーススタディが対になっています。レッスンは全て写真入りで説明されています。同じ著者に

SKIING WITH WHOLE BODY (North Atlantic Books, 1993) がありますが、フェルデンクライス・メソッドをスポーツ分野に応用した例として興味を引くのではないかと思います。

FELDENKRAIS JOURNAL (Feldenkrais Guild) フェルデンクライス・ギルドの機関誌で、様々な分野で活動する指導者たちが執筆しています。現在10号が出ていますが、バックナンバーも入手できます。

Thomas Hanna SOMATICS (Addison-Wesley Publishing Company, 1988) 著者はアメリカにおけるモーシェの最初のトレーニングコースを組織した人です。フェルデンクライスの生徒でしたが、北米Feldenkrais Guildとは別に独自の道を進み、自らの組織を作り雑誌SOMATICSを主幹し、様々なボディワークの交流を目指しました。本書には彼の理論とレッスンが収められていますが、レッスンはATMそのものです。同じ著者で他に BODY IN REVOLT, THE BODY OF LIFE などがあります。

Jeffrey K. Zeig(ed.) A TEACHING SEMINAR WITH MILTON H. ERIKSON (Brunner/Mazel, 1980) フェルデンクライスはミルトン・エリクソンの仕事を非常に高く評価していました。これはエリクソン博士の5日間のワークショップの記録をまとめたものです。

Wilfred Barlow THE ALEXANDER PRINCIPLE(Victor Gollanz, 1973) 邦訳『アレクサンダー・テクニック』(伊藤博訳/誠信書房)アレクサンダー・テクニックの実態を紹介して世に広めるきっかけになった著書です。

Charles V.W. Brooks SENSORY AWARENESS (Ross Erikson, 1974) 邦訳『センサリー・アウェアネス』(伊藤博訳/誠信書房)自分の体や環境への感覚の目覚めを通して自己への気づきを深めるセンサリー・アウェアネスの実際について、そのパイオニアであるシャーロット・セルヴァーのパートナーが周到に記述したものです。

Ida Rolf ROLFING: THE INTEGRATION OF HUMAN STRUCTURE (Harper & Row, 1977) ロルフィングの創始者が年月をかけて仕上げた大作です。


最後の3冊は、フェルデンクライス・メソッドと近い関係にあるボディーワークの基本文献です。相互に通じるものと互いを分かつものを知ることはとても大切だと思います。
他に日本のものでは、野口整体、操体法などの書物も参考になりますが、取り上げだすときりがないので今回はこれぐらいにしておきます。また、ヨーガや気功についても研究する必要があると思います。(1996.11.20.安井)


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