出会いと発見 12

ミア・シーガルさんのレッスン


前回の号外(講習会案内)にも書きましたが、この夏に受けたミア・シーガルさんのレッスンは大変刺激的でした。彼女はモーシェ・フェルデンクライス自身がいちばん信頼していた生徒にして協力者、現存する最良の指導者だと言われており、高名にして伝説的な人物です。20年以上前3年間ほど日本に滞在したこともあるのですが、今回はティーチャーズコース3年目冒頭の3週間、トレーナーとしての来日でした。待ち望んでいた甲斐があったと言うべきか、ひと味もふた味もちがったレッスンを楽しむことができました。

一言でいうと、それは大変に分かりやすいレッスンでした。例えば、ATMレッスンの動きの一つを取り上げ、それを全員で行ってから、何人かが選ばれてみんなの前でやってみせます。選ばれた人たちの動きはそれぞれに微妙なあるいは明らかな違いがあったりします。残りのものたちはそれを観察しながら、どこがどう違うかを指摘するよう求められます。何人かが発言したところで、今度は先生が一人一人の発言にコメントを加えながら、その動きのポイントを説明します。これは普通よく行われるやり方なのですが、ミア・シーガルさんの場合、そのときの応答・説明がきわめて具体的かつ丁寧で、観念的な言葉をできるだけ避けて話されるので、非常に理解しやすいのです。どんな初歩的な、一見つまらないと思われる質問にも、噛んで含めるように懇切に周到に疑問を解き明かしながら答えが返ってきます。

説明が具体的で丁寧だと言いましたが、このことはレッスンの進め方についても言えます。この3週間の期間に取り上げられた動きの数は非常に少なく、ATMレッスンにしてわずか3種か4種ぐらいでしかありませんでした。ひとつのATMレッスンの主要な動きをテーマにして、その一つのテーマをずっと1週間かけて様々な方向から検討し味わい尽くすという感じでした。そうすると、今まで気がつかなかった世界が見えてきて、広く浅くではなく、一つのものをより深く体験することがいかに大切かを思い知らされました。

レッスンの内容は、ATMの動きを使ったFIへの導入でした。どういう風にやるかというと、例えば2人でペアを組み、一人が動きを行い、もう一人は相手の動きをただ観察することからはじめ、そのあと相手の体のどこかに手を添えて相手の動きをじっくり感じ取ろうとします。ときどき手を添える部位を変えたりして、よりよく相手を感じられるようにします。

最初のうちは相手の動き方が気になったり、自分のイメージと違ったりして、抵抗感を覚えたりします。しかし、自分の中にある強ばりをほぐし、自然に呼吸をしながら、できるだけ虚心になり、素直に相手を受け入れようとしていると、いつの間にか、相手との一体感が生まれてきて、一つの動きを二人して生み出しているような感覚になってきます。それから、今度は相手と役割を入れ替わって同じことを行います。これが一区切りつくと、今度は相手を変えてペアを組み、ふたたび同じことを試みます。役割を入れ替わったり、ペアの相手を代えるたびに、また別の発見が生まれます。

これに似たやり方を毎日かなりの時間を割いて続けるのでした。見方によっては、一見同じことばかりやっていて退屈するのではないかと思われるようですが、相手がかわることによって、同じことがこうも違うのかと感じ、違いを味わうこと・体験することが楽しみになってどんどん繰り返したくなってきます。これこそまさにこの手ではっきりと感じられる発見だったということができます。

レッスンにかかる前に、あるいはその途中で、ミア先生は誰かを相手に実際に手を肩や背骨などに添えて簡単なデモンストレーションをやってみせ、かなり時間をかけて具体的なポイントを指摘してくれるのですが、そのときの集中力の大きさにも非常に感銘を受けました。3年目のコースはFI中心のプログラムにシフトするのですが、このようにしてATMからFIへの導入を実にスムーズに、説得力あるあり方で導かれたのでした。無駄口をたたくことの多いトレーナーが少なくない中で、どんなことでも簡潔に明瞭に表現し、誰とでも親しみ深さと暖かさをもって接するミア・シーガルさんの中には、フェルデンクライス・メソッドの真の知恵がもっとも人間的な形で息づいていると感じたのでした。

第20号(1998/12/01発行)所載


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