出会いと発見 5

ルーシー・アーロンのレッスン


早いもので、フェルデンクライス研究会も発足してから5年が経ちました。20名弱で細々と始めたのが、つい昨日のことのように思えます。それが今や会員数400名を超えるようになり、講習会の案内や機関誌の発送のたびに嬉しい悲鳴を上げているような状態です。

いちばん最初の講習会は1988年7月の目黒教室で、三田の田道住区センターの狭い和室に10名余の参加者を得て開かれました。この時の記録テープが『心をひらく体のレッスン』(第一集全4巻)として残っています。

さて、前置きはこれぐらいにして、今回は最近の講習会(8月の中野教室)で行なったレッスンを紹介します。以前より会員の皆様の要望もありますので、これからは紙面の許すかぎりそうしようと思います。取り上げるのはルーシー・アーロンのレッスンです。彼女はモーシェ・フェルデンクライスから長年にわたって学び、欧米各地でのフェルデンクライス指導者養成コースの講師を勤めています。Mindful Spontaneity という大部の著書があり、そこにはモーシェの著書とは一味違い、非常にデリケートで詳細な、感受性豊かなアプローチが示されています。彼女の出しているレッスンテープ集(全12巻)があるのですが、これから紹介するのはその中の最初のレッスンです。

01:仰臥して床と体の接触を踵から頭まで時間をかけてチェックします。

02:両膝を立て、ゆったり開きます。両足の裏で床を押し、骨盤を持ち上げます。背骨が尾骨の方から順々に浮き上がります。背中はどの辺りまで上がりますか? 骨盤を床に下ろして同じ動きを繰り返します。これは基本的な動きですが、この動きが肩、首、呼吸にどんな影響を与えるかに注意してください。

03:仰臥して右膝だけを立て、両腕は肩の線で左右に伸ばします。右膝を左へ(内側へ)倒します。右膝の内側が床に近づきま、右足裏の外側(小指側)が床から離れ、内側(親指側)は床に触っています。右膝を戻してまた繰り返します。

04:同じ動きを続けながら、右膝を内側へ倒し、さらに右膝を左足先の方へ少し押しやります。この場合、背中と胸を緩めて動きを助けます。骨盤や胸郭の右側が浮き上がります。動
きをやめて仰臥して休息します。床との接触感をチェックします。

05:仰臥で右膝を立て、両腕を肩の線で左右へ伸ばします。04と同じ動きで右膝を左へ倒すと同時に、頭を右へ転がします。背骨のねじれ、骨盤の動きを感じること。何度か繰り返してから、目を閉じて仰臥休息し、体の左右の感覚の比較をします。

06:仰臥で右膝を立て、両腕は肩の線で左右へ伸ばします。右膝を右へ倒し、また戻します。この動きを繰り返しながら、頭は膝とは逆の方向へ転がしてください。

07:同じ姿勢で、右膝を左右へ交互に倒し、頭は膝とは逆方向へ転がるようにします。右膝が倒れたところで一呼吸ストレッチを味わってから戻します。仰臥休息して、体のどこが変わったかをチェックします。

08:仰臥で左膝を立て、両腕を肩の線で左右へ伸ばします。左膝で02、03と同じ動きを何回か試みます。急いで戻らずに、ねじれを十分味わうようにします。仰臥休息して床との接触、全身の内部感覚を味わいます。

09:08と同じ姿勢で、左膝を右へ倒す動きを繰り返します。頭は膝とは反対側へ転がします。つまり左手を見るように動かします。全身を動きに参加させます。頑張らずに自然な呼吸が続くように気をつけます。ねじれた状態でストップし、深めの呼吸を繰り返します。ゆっくり戻します。仰臥休息し、脚、肩甲骨、骨盤と床との接触を味わいます。

10:左膝を立て、両腕を左右へ伸ばし、イメージだけで左膝を左へ倒す動き=実際の動きをしないで、動きの感覚を想像します。では、実際に動きを始め、頭は右へ転がします。ついで、左膝を交互に左右へ倒します。同時に頭は左膝とは逆方向へ転がします。上手に動こうとせず、より楽に動ける方法を見つけようとします。仰臥休息し、左右の違い、床との接触感の比較をします。

11:両膝を立て、ゆったりと両足の間隔をとります。頭を上げて膝の開き具合を確認してください。まず両膝を左右へ倒します。左右の踵は近づかないように動きます。頭は膝とは逆方向へ動かします。

12:両膝立ての姿勢から、両膝を右へ倒し、右膝と床との距離を確認します。そこから、右膝を動かさないで、左膝だけを起こして左へ倒します。そこからまた、左膝を起こして右膝のほうへ倒します。右膝を動かさないで、以上の左膝だけの動きを繰り返します。頭の動きはどうなりますか?

13:両膝を左へ倒し、左膝を床に近いところに保持して動かさないで、右膝だけを左右へ倒す動きを繰り返します。頭の動きは?

14:右膝がいちばん開いたところで、右膝を右の床のほうへ動かし、その力で左膝を引っ張って起こし、さらに右膝のほうへ倒します。ついで、左膝を起こし、左へ倒し、いちばん開いたところでさらに左の床のほうへ動かし、その力で右膝を引っ張って起こし、さらに左膝のほうへ右膝を倒します。このように、片方の膝を開く動きで反対の膝を引っ張る動きを繰り返します。頭の動きはどうなりますか? 呼吸は? それでは、両膝を揃えて同時に左右へ交互に倒してください。前の動きと比べて全身の動きにどんな違いがありますか? 頭と膝の関係はどうなりますか? 仰臥休息し、床との接触を確かめてください。骨盤と床は? 床に触る部分が全身でどのぐらい増えましたか? 呼吸は?

15:両膝を立て、両足の裏で床を押して骨盤、背骨を徐々に持ち上げ、また下ろす動きを繰り返します。02の時と比べてどんな違いがありますか? 骨盤の上がる高さ、動き自体の質(滑らかさ)等はどうですか? しばらく仰臥休息しててから、ゆっくり立ち上がって体の感覚を味わい、周りを歩いて体の支え具合を確かめてください。

以上でこのレッスンは終わります。非常に単純な構成のレッスンですが、股関節と腰椎周辺への気づきは結構深まるのではないでしょうか。動きは決して頑張らないで、エネルギーはできるだけ少なく使い、大きい動きより小さい動きを、速い動きよりゆっくりした動きを目指してください。7割程度の力で動くこと、後の2-3割は余裕として残しておくことです。とにかくエネルギーを節約することは何よりも大切です。そのかわり、時間だけは精いっぱい贅沢に使ってください。(1991年11月記)

― フェルデンクライス研究会機関誌 AWARENESS No.7 所載 ―



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